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「ヤフーの1on1」を読んだらスラムダンク山王戦の謎が20年越しで解けた話

お疲れ様です。スラムダンクで最も好きなセリフは「大好きです。今度は嘘じゃないっす」。稼働率のディフェンスに定評がある開発基盤グループのEM @k.bigwheel (= 西田和史) です。 今日はヤフーの1on1という本を読んでいたら20年謎だった安西先生の行動がやっと理解できた話をします。

スラムダンクについて

みなさんスラムダンクという漫画はご存知ですか?

SLAM DUNK 新装再編版 | 集英社コミック公式 S-MANGA

スラムダンクは90~96年にかけて週刊少年ジャンプで連載された漫画で、シリーズ累計発行部数が1億2000万部の大ヒット漫画です。90年代のバスケットブームを牽引しました。 僕はスラムダンクがとても好きでもう何回読み返したか覚えていません。特に山王戦が好きで未だに年に一度は必ず読んでいます。今日はその山王戦の話をします。 一部ネタバレも含みますので気になる方はご注意ください。

話したい箇所までの流れ

以下で話したい箇所である、登場人物の一人「流川」の覚醒までの流れをざっくり説明をします。

山王戦について

山王戦(湘北vs山王工業戦)は漫画スラムダンクの最終戦です。インターハイに出場した湘北が当たる日本最強と名高いチームで、かつその年のチームは過去10年の山王の中で最強と言われ、山王OBチームにすら圧勝するという規格外の強さとして描写されています。

その最強チーム山王と主人公桜木含む湘北はインターハイの2回戦で当たることになります。

安西先生

安西先生は主人公桜木の高校でバスケ部監督をしている先生です。

KFCのカーネスサンダースのような見た目をしていますが、実は過去に名門大学で指揮をしていた監督で「白髪鬼(ホワイトヘアードデビル)」と呼ばれていました。過去の失敗を機に今のような穏やかな性格になりましたが、その腕は衰えておらず要所要所で名采配、名コーチングをします。

山王戦での安西先生

前述の通り、山王工業は作中おそらく最強のチームです。一方桜木含む湘北はインターハイすら初めて出る客観的には弱小チーム。湘北関係者を除いて誰も湘北が勝てると思っていない、そんな状況下で安西先生は様々な策に出ます。試合前ビビりきっているメンバーのメンタリングをしたり、相手の調子を狂わすため開幕アリウープを仕掛けたり、相手が油断して1年生を出してきたスキに主人公桜木を当てたりします。その一つ一つが確実に山王工業へ刺さり、大差で勝利するはずだった山王工業を怒涛の接戦にもつれ込ませます。

しかし、その中で1つだけ非常に違和感のあるものがありました。それはチームのエース流川に対する振る舞いです。

流川という男

流川は主人公桜木が一方的にライバルと目しているチームメイトです。 唯我独尊かつプライドが高く、マイペースな二枚目キャラクターとして書かれています。

しかしその実力は本物で、作中でも屈指のプレイヤーとされる仙道と1on1で勝敗がつかないほどです(しかも流川は1年生で仙道は2年生)。唯一の弱点はスタミナで、その高パフォーマンスなプレイが1ゲームずっと続けられないというものでした。 とはいえ流川は作中一貫してずば抜けた個人技を持つプレイヤーとして書かれており、特に1on1は山王戦まで一度も敗北することはありませんでした。

沢北という男

しかし、全国最強と目される山王工業の中でついに流川より強いかもしれない男にぶつかります。名前は 北沢 沢北といい、流川と同等の技術を持つ仙道が過去敗北したという唯一の男でした。

この大一番、山王工業戦にて流川は初めて自分より個人技が優れているプレイヤーと戦い、そして敗北しました。過去一度も戦って負けたことのない男が敗北したのです。これによりチームの無敗の大エースという精神的支柱を失い、逆にエースの勝利で調子づいた山王に一気に押されます。それでもなお流川は繰り返し沢北に1on1を挑み、その度に敗北して点差が離れていきます。

安西先生の不可解な動き

この、まさに今指示が必要なシーンで安西先生は意外なことに全く動きません。残り6分を切り刻々とゲーム終了が近づく中、ただ敗北を重ねる流川を前に何もアクションを取らないのです。

そのときの安西先生の独白が以下です:

流川くん・・・ 苦しいが やはり ここは君がなんとかしなくては いけない

君にしか出来ない

君はまだ仙道君に及ばない・・・ その本当の意味を

流川の覚醒

君はまだ仙道君に及ばない、というのは安西先生が流川との面談で過去に言った言葉なのですが、非常に不思議な言葉です。なぜなら、仙道と流川は前述の通り1on1でほぼ同じ技術水準を持っているからです。

しかし、このあとついに流川は覚醒し、今までほとんど行わなかったパスをなぜか行います。そして、次の1on1では沢北に勝利します。

どういうことか? ネタバラシをすると、1on1に絶対の自信を持っていた流川はほとんどパスをすることがありませんでした。しかし、それにより1on1で相対した沢北は流川の行動が非常に読みやすかったのです。その結果、流川の1on1はとても不利な戦いになっていました。そこで流川はパスという選択肢を追加しました。これにより沢北はカバーする必要のある選択肢が増え結果的に1on1でも勝てるようになった、というのが 29巻#258 布石 のシーンです。

ちょっと待ってくれ

安西先生の謎の独白から流川の覚醒、沢北に勝利するまでのこのシーンですがみなさんどう思われましたか? 僕はこの20年間、このシーンを読むたびにこう思っていました。

「いや、安西先生は流川に「パスすれば勝てる」って教えてよ・・・」

ずっと、名監督のはずの安西先生がこんな基本的な助言をしないのか疑問でした。

Yahooの1on1

そんな思いを抱えながら、とはいえ大名作のスラムダンク、何度読んでも面白いなと定期的に読み返しておりました。そんな折、4月から複数人の新卒エンジニアが入社することになり、早速彼らを中心としたプロジェクトが僕をリーダーとして始まります。 弊社では1on1が非常に浸透しておりエンジニア職、ビジネス職など職種関わらず頻繁に実施されています。そのため僕も新卒で入ってくる彼らとも一緒に1on1をすることになったのですが、これもいい機会だと思い以前から気になっていたYahooの1on1という本を読むことにしました。そして、ここで思いがけず安西先生の謎の行動の理由を知ることになります。

Yahooの1on1は言わずとしれた名著で僕の周りのエンジニア採用人事も全員が読んでいる本なのですが、その本で一番最初かつ漫画にしてまで強く伝えているプラクティスが「上司が答えを押し付けてはいけない」なのです。

上司が答えを押し付けてはいけない

1on1、特にエンジニアのマネージャーとメンバーのような関係で1on1を行ってメンバーから相談を受けるとマネージャーはついつい答えを言いたくなります。 例えば「Railsのこれができずに困っています」「XXXの仕事がうまく進んでいません」のような相談です。しかし、Yahooの1on1では社内稟議の手順など単に知っていればいいだけのものを除いてマネージャーの思った答えを伝えるべきではないと書かれています。 なぜか。以下が理由として書かれています:

  1. メンバーが困ったらマネージャーに答えを求めるようになってしまう(依存) → メンバーの成長を阻害してしまう
  2. マネージャーの見えている範囲が当事者(メンバー)より狭い事がしばしばあり、答えが適切ではないことが多い。しかし、メンバーはマネージャーからの助言なので間違っていると感じても実行せざるを得なくなってしまう

実際やってみてどうだったか

この本を読んだ後に意識して1on1をやってみたところ、非常に手応えを感じました。 具体的には今まで僕の見解=意見を押し付けがちだったのですが、メンバーの自分の意見を聞けただけではなく、僕が思ってもいなかったような意見 = 僕が絶対に渡せない解決法を1on1の中で見つけることがありました。これはまさに僕自身の意見の押し付けがメンバーの成長を阻害していたことの何よりの証拠でした。

まだ変更したばかりであるため1on1の改善が成長へどのように良い影響を与えられたのかは確認できていません。ですが1on1の中で自分自身の力により回答を見つけたメンバーは自信を持ってその問題に向かえているように見えます。

なぜ上司が答えを押し付けてはいけないのか

まとめると、1on1でマネージャーがメンバーへ問題への解答を渡そうとする行為は短期的には答えへの道が短くなる可能性がありますが、中長期的にはメンバーの成長を阻害し、ひいてはチームのポテンシャル・パワーを落とすことになります。

この辺りで、ふと最初の山王戦を思い出したのでした。

思い返すと

ここまで読んだ方ならおわかりだと思いますが、スラムダンク29巻では

  • マネージャー: 安西先生
  • メンバー: 流川
  • 1on1: 安西先生自宅への流川の訪問

となっています。安西先生は流川の課題を伝えつつ(現時点で君は仙道くんには及ばない)答えを教えていません。 その場で流川の回答はでませんでしたが、自らの内省(1on1帰り道での思い起こし)や試合中での思索(経験学習)によりついに自分の回答にたどり着きました(パスで相手から見た選択肢を増やす)。

安西先生の凄さ

なるほどー!こういった理由で答えを言わなかったのかと思う一方、そこでさらに安西先生は想像を超えてすごかったことに気づきます。 安西先生は過去名を馳せたとはいえ、今はインターハイに出場したこともない弱小チームの監督をしています。そんな湘北が手にしたインターハイへの切符はチームメンバーにとってだけではなく、安西先生にとっても決して軽々しく扱えるものではなかったはずです。 そんな1勝がとてつもなく貴重なインターハイで、湘北が山王に勝つためだけで言えば流川にパスをしろと指示するべきかもしれない場面でじっとこらえています。 なぜか。ここからは僕の解釈になりますが、目の前の1勝という短期の成果ではなく、流川の成長 = 湘北の長期的な強化という長期的な成果を追い求めているからだと僕は解釈しました。短期の成果へ飛びつかず、長期的で最終的な成果をきちんと優先できている。安西先生はやはりすごいです。

2022年のマネージャーのあるべき姿

僕は子供の頃に少年野球をやっていました。それもあってか、リーダーというのはチームの中で率先して実行するもの、号令をかけてみんなを鼓舞する猛将のようなイメージを持っていました。 そのため、安西先生のような姿は主人公の桜木や赤木たちを邪魔しないようデザインされた脇役に過ぎず、理想の指導者像とはかけ離れたものだと思っていました。

しかし、チームが機能するとはどういうことかなどで語られるように現代では解くべき問題の複雑性が加速度的に増加しており、1人のリーダーに情報を集めれば全員分の正しい指示を出すことができる、といった昔からの成功パターンは通用しなくなっています。そんな現代では個々が自分の力を最大限発揮しつつ、高度に協調することが必要です。そうなると、必要になってくるのはまさに安西先生のようにメンバーの成長を全力で支援し、可能性を解き放つリーダー・マネージャーかもしれません。

まとめ

20年経った今でも学びが得られるスラムダンク、やはり不朽の名作です。 Yahooの1on1も1on1を実践する上でたくさんの収穫がありましたので、特に社内で1on1をされている/受けている方々、読まれてみてはいかがでしょうか。


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