Speee DEVELOPER BLOG

Speee開発陣による技術情報発信ブログです。 メディア開発・運用、スマートフォンアプリ開発、Webマーケティング、アドテクなどで培った技術ノウハウを発信していきます!

AIを組織の競争力に変える、SpeeeのAIガバナンスデザイン

こんにちは、Speeeでビジネス領域のAIガバナンスプロジェクトのオーナーをしております 長山と申します。普段はバントナー事業部で、クライアント企業のDXに伴走支援しております。また本記事でご紹介する取り組みでは、日々、「AIをもっと活用したい」という現場の声と「安全に使おう」という組織としての要請の間でバランスを取る挑戦をしています。

皆さんの組織でも、「このAIツールは使っていいの?」「この情報を入れても大丈夫?」「新しいAIツールを試したいけど申請方法が分からない...」といった声がありませんか? ツールの進化が加速度的に進む今、組織としてAIをどう取り入れていくかは、単なるIT管理の問題を超えた経営課題になっています。

この記事では、Speeeで今年1月から取り組んでいるAIガバナンスプロジェクトについて、その背景から現在の取り組み、そして見えてきた課題や展望までをお伝えします。

Speeeにおける課題意識

Speeeは、DXコンサルティング、不動産やリフォームなどのレガシー産業領域でデジタルトランスフォーメーションを推進する企業です。「解き尽くす。未来を引きよせる。」というミッションのもと、社会課題の解決に取り組んでいます。

そんな私たちが直面していた課題は、AI活用の管理体制の分散でした。 法務部門、セキュリティ部門、情報システム部門など、各部門がそれぞれの視点でAIツールの利用可否を判断し、申請フローもパラレルに存在していました。これは以下の問題を引き起こしていました。

  • 申請者(現場)にとっての手続きの複雑さ
  • 判断基準の不統一
  • 新ツール検証・導入の遅延
  • 現場の「使ってみたい」意欲の低下

特にAIは日々進化が速く、昨日までのルールがすぐに陳腐化してしまいます。「守り」の視点だけで管理体制を構築すると、「攻め」によるビジネスチャンスを逃してしまう。一方で、自由度だけを重視すれば組織としてのリスク管理が疎かになる

このジレンマこそが、AIガバナンスプロジェクト立ち上げの出発点でした。

AIガバナンスプロジェクトの立ち上げ

2025年1月、私たちは「AIガバナンスプロジェクト」を立ち上げました。このプロジェクトの特徴は、複数の専門性を持つメンバーによる横断的な組織構成です。

  • ビジネス側からプロジェクトオーナー(筆者)
  • 開発部門からテックリード
  • 法務部門から法的リスク管理者
  • セキュリティチームからセキュリティ専門家

なぜこのような体制にしたのか?それは、AIガバナンスが技術だけ、セキュリティだけ、法務だけの問題ではないと考えたからです。 AIの活用はビジネス価値の創出と深く結びついています。同時に、技術的側面、法的側面、セキュリティ面の専門知識なしには適切な判断ができません。

私たちが目指したのは「攻めと守りを両立させるAIガバナンス」です。

  1. 安全性を確保しつつ(守り)
  2. 新しいAIツールの検証・導入を促進し(攻め)
  3. 組織全体としての競争力を高める(未来)

そのためには、三位一体の取り組みが必要だと考えました。

AIガバナンスの設計思想

AIガバナンスを設計する際、私たちが最も重視したのはルールは枷ではなく基盤であるという考え方です。

従来のツール管理でも、使用可能なツールをホワイトリストとして管理していましたが、AIツールの場合はその進化速度が従来型IT製品と比較にならないほど速く、従来の承認プロセスではツールの評価や管理が追いつかない状況でした。現場が必要とするタイミングで適切な判断を下すには、新たな枠組みが必要だったのです。

そこで私たちが採用したアプローチは以下です。

  • ツールごと・規約ごとの管理:同じAI機能でもツールや規約によって特性やリスクが異なる
  • 申請プロセスの簡略化:現場の利用障壁を下げる
  • 判断基準の透明化:なぜOK/NGなのかを明確に

特に意識したのは必要以上に厳しくしないこと。セキュリティや法的リスク管理は重要ですが、それを理由に組織のイノベーション意欲を削いではいけません。

「どこまで守れば攻められるのか」を基準に、最低限必要な「守り」を固めた上で、最大限の「攻め」を可能にする。この発想が私たちの設計思想になります。

具体的な取り組み内容

私たちは以下の取り組みを実施しました。

1. 組織体制の構築

  • AIガバナンス委員会:前述の4名で構成され、方針決定や個別案件の判断を行う
  • AIガバナンスパートナー:各事業部から選出されたメンバーで、現場のニーズと委員会をつなぐ架け橋となる旗振り役

2. ルールとプロセスの整備

  • ツール利用申請フローの一元化:複数部門への申請を1つのフォームに統合
  • 情報入力可否基準の明確化:ツールごとに「どの情報を入力していいか」を明示
  • 利用ガイドラインの策定:単なるルール集ではなく、「生成AIから理想の結果を引き出す方法」など実践的なコンテンツも含む

3. コミュニケーション基盤の整備

AIガバナンスコミュニティの立ち上げとして、社内Slackチャンネルを開設し、下記を設計しました。

  • 委員会の意思決定プロセスの透明化
  • チェック実績のフィード
  • 最新AIニュースの共有
  • 現場からの質問・フィードバックの受付
  • 現場のAI活用ユースケースコンテンツの作成と共有

4. 効率化のための技術導入

運営側の作業負荷を減らすため、チェック用AIエージェントを開発し、申請内容の一次スクリーニングを自動化しました。 これにより委員会は「人間の判断が必要な案件」に集中できるようになりました。

チェック用AIエージェントは、以前別メディアで発信した環境をアップデートして利用しています。

qiita.com

現場の声と課題解決

AIガバナンスの初版をリリースした後、現場からは「めっちゃありがたい…!」「今までAIの申請は大変だった」といった声も寄せられました。

一方で、初版の規約では解消しきれない現場のニーズも見えてきました。 例えば以下のような声です。

  • このケースはグレーゾーン、どう判断すべき?
  • 機密性の高い情報でも使いたい
  • 外部ツールとの連携はどこまで行っていいのか

これらに対しては、現場メンバーと定期的なミーティングを行い、現場の実態を深く理解した上で規約のアップデートを重ねています。

私たちが学んだのは、AIガバナンスは一度作って終わり、ではなく、現場と対話しながら継続的に進化させていく必要があるということ。

「100点の完璧なルール」より「70点でも使いやすく、改善し続けるルール」の方が組織にとって価値があります。

組織文化としてのAI活用の深化

AIガバナンスプロジェクトを通じて見えてきたのは、単なるルール整備を超えた「AI活用文化」の醸成の重要性です。

私たちが社内AIコミュニティチャンネルで掲げたメッセージには次のような一文があります。

このチャンネルは、SpeeeにおけるAI活用のあり方を ともに育て、広げ、深めていく社内コミュニティです。

このメッセージには、AIガバナンスを「トップダウンで押し付けるもの」ではなくみんなで育てるものという私たちの思いを込めています。

実際、問い合わせフォームも含めたコミュニティでは委員会からの一方通行の情報発信だけでなく、メンバー同士のAI活用ノウハウの共有や、「この使い方は大丈夫?」といった相談が活発に行われるようになっています。

こうした文化形成が、形式的なルール遵守を超えた「考えるAI活用」を促進し、組織全体の競争力向上につながると考えています。

今後の展望と挑戦

AIガバナンスプロジェクトは始まったばかりです。今後、以下の取り組みを計画しています。

AI活用実績の見える化

  • 各部署でのAI活用による効率化、品質向上などの成果を定量・定性でまとめ、組織全体に展開

AI倫理やリスクについての対話機会の創出

  • 「この使い方は大丈夫?」「これはグレー?」など、判断に迷うテーマを持ち寄れる場づくり

ナレッジ共有イベントの開催

  • LT会や勉強会などで経験やノウハウを語り合えるリアルタイム交流の機会設計

AIガバナンスルールの進化履歴の可視化

  • 「なぜそのルールに?」という背景や意図を見える化し、理解と納得を促進

ユースケースマップの整備

  • どこで、どんなAIが、どう使われているのかを可視化し、組織内の活用状況を俯瞰

これらを通じて、AIを「使っていい / いけない」の二元論から脱し、「どう使うと価値が出るのか」という本質的な議論へと発展させていきたいと考えています。

組織横断的アプローチの重要性

AIガバナンス構築の過程で得た最大の学びは「組織横断的アプローチの重要性」です。 AIシステムの管理を担当するのは通常、情報システム部門や情報セキュリティ部門といった中央組織です。しかし、AIの活用ニーズを持っているのは現場のビジネス部門やエンジニアです。

さらに、AIの特殊性として「進化の速さ」があります。従来のITガバナンスのように中央管理部門が時間をかけてルールを策定し、それを現場に適用する...というアプローチでは、技術の進化に追いつけません。

この課題に対する私たちの答えは組織横串の体制構築でした。法務、セキュリティ、開発、ビジネスという異なる専門性を持つメンバーが、それぞれの視点を持ち寄り「共に考える」体制を構築することで、バランスの取れた判断と迅速な対応が可能になりました。

まとめ:共に育てるAIガバナンス

Speeeが掲げる「解き尽くす。未来を引きよせる。」というコーポレートミッション理念の下、私たちのAIガバナンスプロジェクトは「AIの力を最大限に引き出し、事業価値を創造する」という目標に向かっています。

AIガバナンスは「完成形」ではなく「育て続けるもの」です。技術の進化、社会の変化、組織のニーズに合わせて常にアップデートし続けることで、AIを安全かつ大胆に活用し、未来の競争力を創出するための基盤となります。

私たちは、このAIガバナンスの取り組みを通して、単なる「AIツールの管理」を超えた「組織としてのAI活用力」を高めていきたいと考えています。そして、その過程で得た知見を業界全体と共有し、日本企業全体のAI活用レベルの向上に貢献できればと思っています。


Speeeでは、AIを活用したサービス開発や業務改革に興味のあるエンジニア、プロダクトマネージャー、ビジネスパーソンを歓迎しています。「AIで世の中を変えていきたい」という思いをお持ちの方は、ぜひ私たちと一緒に挑戦してみませんか?

※本記事の内容は2025年5月時点のものです ※本記事はAIで執筆されました